(2018年8月撮)
初冬の伊豆高原。
コンバーチブルの屋根を大きく開け放ち スローなジャズを流しながら ところどころ黄色や紅に色づき始めた樹林をゆく。
行き交う車は少ない。
信号機のない高原道路を50~60㎞で悠揚と走り抜ける時 さっきまでかき分けていた街の喧騒を もう忘れている。
森の冷気と木漏れ日が全身に降り注ぐ中 ゆるやかにアップダウンを繰り返すワインディングを辿る。“スポーティー”というよりは むしろ重厚感たっぷりの”ゆとり”とも言うべき味わいを楽しんで。
半島の尾根伝いに森を縫って走るこの道は 時折左右に視界を開く。
雄大にそびえる富士を背に南へ下れば 片や 傾きかけた陽光を照り返してギラギラ輝く駿河湾 片や静かに広がる相模湾 そして前方間近に浮かぶ大島。木間隠れに それらの景観が交互に現れる。
箱根連山から走り継いで伊豆の山々を縦走。鳥のさえずりを次々と置き去りにして コンバーチブルの解放感にほくそ笑む。目的のない浮遊感に身を委ね しばしの静寂 いくばくかの贅沢をむさぼりながらゆくのだ。
雄大にそびえる富士を背に南へ下れば 片や 傾きかけた陽光を照り返してギラギラ輝く駿河湾 片や静かに広がる相模湾 そして前方間近に浮かぶ大島。木間隠れに それらの景観が交互に現れる。
箱根連山から走り継いで伊豆の山々を縦走。鳥のさえずりを次々と置き去りにして コンバーチブルの解放感にほくそ笑む。目的のない浮遊感に身を委ね しばしの静寂 いくばくかの贅沢をむさぼりながらゆくのだ。
これはそういう車。
さてと ここまではいい。
だけど って話ね。
だけど って話ね。
現代の都市生活において 車の屋根を開け放って走る贅沢なんぞは 他になかなか代えがたいもんがあるよね。高級車を駆る贅沢もあるが それとはまったく趣を異にする喜び 心の解放を全身で感ずるはずなんだ。
だけど 悲しいかな 日本でコンバーチブルの心地よさを味わうには おのずと場面が限られてしまうって現実が。
そうなんだよ
真夏の炎天下 灼熱の太陽の下に出てゆくバカはいないし そぼ降る雨もダメ。
真夏の炎天下 灼熱の太陽の下に出てゆくバカはいないし そぼ降る雨もダメ。
おまけに 都市部ではどこも渋滞が激しいうえ 信号が多く短いストップアンドゴーの繰り返しときている。
トンネル内に入ろうものなら 耳をつんざく轟音とともに 排気ガスのシャワーを全身に浴びることに。
それに そもそも街中じゃ気恥ずかしくて 開けてなんて走れやしないけどね。渋滞にハマっているザマもカッコ悪いけど 信号で止りでもしてごらんよ 歩行者からジロジロ見られるじゃないか。裸で街を歩くようなもんだぜ。これ見よがしってのが粋じゃないし 『見せびらかしてんじゃねェよ』なんて思われんのもシャクだわな。
ワインディングロードといったって 信号のない緩やかな田舎道なんて 北海道以外には少ない。それどころか 本州のほとんどの山間部は 急峻で かつRの小さい山坂が多い。ライトウェイトスポーツでシフトチェンジやハンドリングを楽しむなら別だが コンバーチブルで悠然とドライヴとは なかなかいかないんだよ。
暑くてもダメ。雨でも渋滞でも トンネルでもダメ。
いったい 年間何回くらい屋根を開けて走れるのかねって。
ただし 寒さがダメかと言えば そんなことはない。むしろ冬の寒気の中 屋根を開け放って走るのがまたオツってもんだ。ヒーター/シート・ヒーターを入れれば防寒さえいらないくらいなんだから。
昔 若い頃 タダで譲って貰ったオンボロ"DATSUN"のフェアレディに乗ってたことがあってさ。幌つきの"オープンカー"だよ。オンボロだけど音もスタイルもカッコ良かった。でも幌がバリバリで 雨が降りゃ雨漏りなんてもんじゃなかったし 冬は耳がちぎれるほど痛かった。それでもめっぽう楽しかったよ。やせ我慢半分ね。
その点 SCならそんな我慢も必要ないよね。快適そのものだもん。冬こそ開けて走りたい ってくらいの感覚だ。まあ ”ダンティ”とは 時にヤセ我慢も必要ということでもあるし どっちみち自己満足の極致なんだからそれでいいんだし。
ただ"オープンカー"ってのはさ 奥ゆかしい日本人にとっちゃ まだまだ気恥ずかしさが拭えないよな。粋なヤセ我慢ならいいけど あざとさなんてこけんにかかわる。冒頭に述べたシチュイエイションだって 誰も見てないあんなところだからこそ 多少のキザも許されるってもんだ。
SCの”S”は Sportsの”S” だという。
”Sports Coupe”
英語で言うsports は 娯楽・レジャーだね。この車は謂わゆる ”スポーツカー”じゃない。味付けはマイルド。大柄で重く スタートから巡航速度程度まででは むしろ”鈍重”とも言える。
いや 実は高回転域ともなれば爆発的パワーを発揮するということだが ブレーキ性能やハンドリングはそれを制御するようにはなっていないらしいし コンバーチブルゆえ 車体剛性からして弱いというのが評価だ。しかし そもそもそんな高回転を乗りこなせる人も多くはないだろうし それを云々する人はSCに載らない。(発売当初から レースにも参戦していたくらいだから元々ポテンシャルは高いんだろう)
つまり レクサスが”Sports”と名付けた意図は その”風情”を言っているんだろうね。リラックスした娯楽性。スパルタンなスポーツカーとはまったく別次元のものだ。
「美しさ」と そして控えめでありながらも 「 華やかさと優雅さ」を謳い 「ドライブする爽快さをも味わってください」というもんだ。"控えめ"ってところが粋じゃないか。控えめで優雅な華やかさ。
「レクサスの華」
”クーペ”で”コンバーチブル”という 紛れもない遊び要素と 全体の流麗なボディラインがそれを見事に表現しているよね。
デザインはね スポーツカーの常道として「ロングノーズ・ショートデッキ」を一応は踏襲している。
全長に対して小さいキャビン。実質2シーターで 大きな2枚ドアに加えて 比較的ロウダウンに設定されている。
全体に丸みを帯びたふくよかさを持っており これが先代のソアラとはまるで違う趣きだ。このふくよかな丸みこそがこの車を唯一無二の存在たらしめていて SC430である所以とも言える。
全長に対して小さいキャビン。実質2シーターで 大きな2枚ドアに加えて 比較的ロウダウンに設定されている。
全体に丸みを帯びたふくよかさを持っており これが先代のソアラとはまるで違う趣きだ。このふくよかな丸みこそがこの車を唯一無二の存在たらしめていて SC430である所以とも言える。
でね まずこの「大きな2枚ドア」
これはカッコいいんだけど 駐車するには不利な要素だ。
広いアメリカなら何ら問題じゃないが ここは狭い日本だ。駐車スペイスはだいたいどこも狭いんだよね。気を遣うんだ。自分が開けるとき 大きなドアがアダになる。シート位置が低いから ドアは大きく開けたいじゃないか。
広いアメリカなら何ら問題じゃないが ここは狭い日本だ。駐車スペイスはだいたいどこも狭いんだよね。気を遣うんだ。自分が開けるとき 大きなドアがアダになる。シート位置が低いから ドアは大きく開けたいじゃないか。
その「アメリカ向け」でスポイルしているのが「4人乗り」だ。
全体のデザインからしていかにもスポーツカー然としているし パッと見た目にも二人乗りにしか見えない。それでよかったのに ナゼか後ろにシート"らしきもの"がついている。
一見「手荷物置き場?」 かと思いきや 実は法律上4人乗りなんだね。だから「後席」があるんだ。アメリカでは2人乗りだと保険料がボンと2倍に跳ね上がるんだって。それで無理にでも4人乗りで行きたかったらしい。
一見「手荷物置き場?」 かと思いきや 実は法律上4人乗りなんだね。だから「後席」があるんだ。アメリカでは2人乗りだと保険料がボンと2倍に跳ね上がるんだって。それで無理にでも4人乗りで行きたかったらしい。
結果ほんとに無理しちゃった。なんと バックレストが垂直に立ち上がってしまった! しかも足も置けないくらい狭い。座れないシートなんだよ。もう笑うしかないよね。
SC430は こんな具合に実用性は度外視した「 オシャレでエレガントなお散歩用馬車(クーペ)」という描きなのだ。(実用性を度外視! これぞ贅沢の極みじゃないか!)
だからね SCを”鈍重”と感じてしまう人は そもそもがこれに乗る人ではないということなんだな。ボディ剛性が弱いとか馬力が小さいとか フワフワしてるとかブレーキが甘いとか どれもこの車にはお門違いの評価なんだよ。
コンバーチブルという括りで言うと SCの屋根がメタルトップである点も重要なんだな。
コンバーチブルってのは言うまでもなく 屋根をオープンして走るもんであり それでこそ価値があるわけだ。
ところが残念なことに 日本の現実は屋根を閉めている時間がほとんどじゃないか。雨も多く 渋滞も激しい。ならば クローズ状態でも恰好良くなければならないよね。
なのに多くのソフトトップ・コンバーチブルは そこでデザインが損なわれてしまっている。ソフトトップを組んだ時が美しくないのが多いんだよね。中には 出来の悪いカツラかぶってるみたいなのもある。
(最近は目ざましくよくなってはきてるけどね)。
(最近は目ざましくよくなってはきてるけどね)。
その点SCは 屋根を閉じれば"美しいクーペ"なんだ。
この点が素晴らしいんだよ。
この点が素晴らしいんだよ。
車の楽しみ方は千差万別十人十色。最新鋭マシンのスペックを読み込んで走りを夢想する人から 旧車をこつこつリストアして愛でる人まで。
私がSCに乗る唯一の理由。それは
屋根を開け放って ワインディングを穏やかにたゆたう。
これに尽きる。
束の間の贅沢。特別に味わう時間と空間。
単なる豪華さとは違う コンバーチブルであるSCならではなんだよ。
単なる豪華さとは違う コンバーチブルであるSCならではなんだよ。
まさに愉悦であり至福であるんだね。
良い点
●
何より "美しい"
そして"屋根がオープンする"
そして"屋根がオープンする"
これが"すべて"と言ってもいい。
ノーブルでエレガント
奇をてらったところがない
ボディラインが柔らかい
特にお尻のラインが素晴らしく綺麗
車全体が”ラグジュアリー”でありながら ”これ見よがし”な嫌味がない
いちおう”スポーツ”を謳っており ”ロング・ノーズ/ショート・デッキ”のセオリーを踏襲してはいる。しかし それは極端でなく 上品で程よいバランスに収まっているそして屋根が開く
あらためて惚れ惚れするね
とは言え
これで”高級車”? という難点も
●
道路の段差超え
”バスン” ”バスン”と ショックが大きく 品がない
●
シフトチェンジのショック
シフトチェンジのショック
Pから Rにチェンジするとき
"ガクン"とショックが大きい。
ブレーキをシッカリ踏んでいないといけない。
(Nから Dへは左程大きくはない)
"ガクン"とショックが大きい。
ブレーキをシッカリ踏んでいないといけない。
(Nから Dへは左程大きくはない)
同じく Dへ入れたとたん ポンと車が飛び出そうとする。
(ブレーキをシッカリ踏んでいないと)
(ブレーキをシッカリ踏んでいないと)
同じく Dに入っている状態からブレーキを離すとき
ポンと飛び出そうとする。
(クリーピング動作が強い)
ポンと飛び出そうとする。
(クリーピング動作が強い)
これはリヴァースも同様。
このシフトの感じは 全体的に品がないね。
●
静粛性が足りない
屋根クローズ状態においても ロードノイズが意外と大きい。
”音もなく” ”滑るように” という走りではない。
せっかくのマークレビンソンのオーディオだが 音楽だけが気持ちよく聞こえているというわけにはいかない。
”音もなく” ”滑るように” という走りではない。
せっかくのマークレビンソンのオーディオだが 音楽だけが気持ちよく聞こえているというわけにはいかない。
●
屋根が閉まる際 屋根枠が後ろからウィーンとせり上がってきて フロントピラーにドッキングする。この時の 「バシャッ!」という音。これが下品。
EOSの場合は ドッキングの寸前 一瞬動きを止め そこからやおら動き直し スッと静かに収まるという ”おしとやかさ”があった。
(SCは世界初の電動開閉式ハードトップ。最先端の技術を導入した意欲的機構ではあったったが そこまで行き届かなかったんだな。これに対し EOSは後発だからしっかり改良されているんだ)
(SCは世界初の電動開閉式ハードトップ。最先端の技術を導入した意欲的機構ではあったったが そこまで行き届かなかったんだな。これに対し EOSは後発だからしっかり改良されているんだ)
●
ダッシュパネル(この車の仕様はブラックアッシュというのか)
この木目模様? これ木目なのか? 一瞬 うっすらホコリを被っているのかと見まごうばかりに かすかに浮かぶ木目?
シートの赤に対比させた黒なのだろうが これはNG
(パネル色は他にも何種類かある)
(パネル色は他にも何種類かある)
●
リアトランクのスポイラーは無粋 不要
ほとんどのSCがこのオプションをつけているのは どういうわけか
いくら純正とはいえ せっかくの綺麗なラインに わざわざ "とってつける"センスがわからない
いくら純正とはいえ せっかくの綺麗なラインに わざわざ "とってつける"センスがわからない
●
ボディカラーのコスモシルヴァーと真っ赤な革シートは似合っている
(白じゃなくても良かったかな)
◆ソアラのひ孫
トヨタソアラは 日本初の本格パーソナルクーペとして颯爽と世界デビューした。スーパーグランツーリスモを謳い ラグジュアリーでありながらもアウトバーンを200㎞で走れると言う かつて無いほどの高級志向とスポーツ性能を併せ持ったトヨタ渾身のスポーツクーペだった。メルセデスやBMWに比しても恥じない性能と品格を持った淑女を目指したんだよね。そしてその意気込み通り 国内では一大ブームを巻き起こし 国際的にも絶賛の嵐を浴びるなど エポックメイキングな車として歴史に名が刻まれる存在となった。
その初代ソアラの 系譜から言えば孫のその下 ひ孫ちゃんくらいにあたるSC430。しかし 先進性と優越性を誇って華々しくデビューしたヒイお祖母さんとは全く異なる趣をまとって こちらはおっとり そして飛びっ切りオシャレでエレガントな深窓のご令嬢として生まれてきたって感じだろうか。
2018.8
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